その3
剣崎



”…この子は助けを求めていたんじゃないのか!ここにいる間、おそらくずっと‥。それを叶えてくれる人間をじっと待って、見定めしてきたのかもしれない。ならば…、この子は俺をその対象として判断したということなのか…!”

わずかの時間、頭の中で自問自答したあと、俺はこう彼女に尋ねた

「今と同じこと、他の誰かに話したのかい?」

「…いいえ。あなたが初めてです」

俺はハンマーで頭を殴られた気分だったよ

複数の意味で衝撃を受けたんだ


...


「…わかった。俺は関東の独立系やくざ組織、相和会の剣崎満也という者だ。念のため聞こう。俺がやくざもんと知っても、君の最初の言葉に変更はないのか?」

「ないです。ぜひ、お願いします!」

彼女は毅然とそう言いきっていたわ

「…よし。では、君の素性はおおざっぱでしか知り得たいないんでな、明日、組に戻ったら上の者に相談してみる。ここを離れる際は、この連絡先に電話を掛けなさい」

俺は、いつも携帯している緊急連絡先のメモ切れを一枚、少女に手渡した

彼女はその紙を両手でギュッと握りしめ、一度それに視線を落としてから再び俺を見つめ、今度は低い声でこう語った

「待ってますから‼でも、時間はそんなりありません。剣崎さん、お願いします…」

最後は絞り出すような声だったよ


...


とにかく…、この子が発したいずれの”言葉”からも、切実さ、緊迫感が伝わったし、説得力も…

そのなぜだかを、俺は後日知って、そん時も激しい鳥肌が俺の腕を襲ったんだが…

この時にぼんやりと浮かんだある情景

それは、壮絶…

こんな若い女には到底そぐわないこの二文字の存在は、相馬会長を説得する際、強く俺の背中を押すことになる…