その2
剣崎



ミカは前回、相和会の”仕事”を終えた後、ウチを経由した任務で東南アジアに渡った

それ以降は海外をずっと転々としていたようだ

彼女からは南米での仕事までをひと通り報告されたが、何とも淡々としたしゃべり方は全く変わらない

俺はミカがこうして話す姿を見るのが正直、しんどい…

というよりも辛くなるんだ

それは初めて会った時からそうだった

なにしろだ…!

最初にミカが、自分を排除する目的で現れたやくざのこの俺に話しかけてきた、”あの顔”が忘れられない

あの時…

まだ弱冠20才だった鹿児島ミカと出会ったのは、ちょうど8年前になるか…

場所は北九州だった…


...


「…お願いです!私をアメリカに戻さないで下さい!」

「…」

細身のその若い娘は、この一言を口に出すまで、しばらく俺の顔をじっと見つめ続けていたよ

4階建てビルの一階フロア…

背中に窓からの眩しい西日を浴び、弱々しく立っていた彼女は、よく見ると唇を震わせていた…


...


「俺は君に危害を与えるつもりはない。ただ、このビルの持主から占有者の立ち退きを依頼されてる。…その占有者は君ってことでいいね?」

長身の俺は彼女と目線が合う程度まで腰をかがめ、まるで小学生をあやすようなしゃべり口で話しかけた

彼女は返事も頷くこともしなかった

その間も、ただひたすら俺の目を見つめ、視線を決して離さなかったんだ

刺すような、ある種、粘着質なエネルギーを帯びたこの視線はなんなんだ…!

変な話だが、そんな感覚を意識したら、俺の両腕には鳥肌が立っていた

なぜか…

...


その時の俺は、この少女が何を俺に訴えかけているのか、すぐに計り知ることができなかった

しかし、どう見ても怯えている様子だったのは一目瞭然で理解できた

だが果たして、その対象はこの俺なのか、それとも…

そして、もう一度問いかけようかと思った瞬間、冒頭の言葉が彼女の口がら飛び出したんだ

だがそれは、決してか細い声ではなかった

感情もこもっていたし、一種の叫び声に近かったな

そして俺は、ふと”あること”を感じ取ったんだ