セメントの海を渡る女

その10
剣崎



はは…、あれから、ミカに麻衣をガード役にどうだって言いだしたら、さすがの倉橋も即諾だったわ

「…じゃあ、ミカを麻衣のガードにつけるってことで。組ん中が問題なければ、俺としてもありがたいっすよ。何と言っても女同士ってのは安心ですから」

倉橋は鈍感だから、ミカが自分を思慕してることなど気づきていないだろう

しかし、麻衣は逆に超能力者並みにカンが鋭いからな(苦笑)

おそらくは初対面でミカの胸の内を透視しちまうだろうよ

ミカからすれば、うんと年下のションベン娘が自分の憧れる男の婚約者となりゃあ、ジェラシーくらい心の奥底で湧いてくるさ

まあ、それによってミカの仕事に影響することなど、ヤツにはあり得ないが…

しばらくは、俺もさりげなく二人を注視せねばな…

そして…

...


まさに予測通りだった

さほど時間を置かず、ミカと麻衣はひと通りの紆余曲折をたどったようだったよ

しかし、アイツらのそれは、実にあの二人ならではの化学反応ってことで、ズバリ言って吉と出たんだ…


...


この日は相和会の主だったところがヒールズに勢ぞろいして、重大なミーティングを持つことになっていた

で、その前に、我々は親戚のオヤジ連中として、婚約を控えた麻衣のコドモママさんぶりを見学していた

そこへ婚約パーティーでは、麻衣の親戚のお姉ちゃん役となる鹿児島ミカが店に入ってくると、持ち前の演技力で接客中の麻衣に話しかけていてな…

「二人はうまくやってますよ…」

ボックス席からその様子を眺めていた相和会3代目の矢島さんや明石田の叔父貴を前にして、倉橋が照れくさそうにこう言ってたんだが…

極道界の大御所たちは、揃ってクスクス笑いをこぼしてたよ

おそらく他の皆は、麻衣のけなげな接客姿を微笑ましく感じての反応だったと思う

だが俺はむしろ、お姉ちゃん役としてでも、ミカが屈託のない笑顔を浮かべ、妹?の麻衣と一言二言交わしてる絵柄に心が和んだ

感激したといってもいい

さらに言えば、達成感も混在していたよ

俺はその表情を待っていたんだ、ミカ…

会長もきっと喜んでいるさ


...


その夜、全員での重要会議を終えた後、深夜になって俺は麻衣と二人でナイトミーティングに入った

これも二人だけではあるが、今後の方針を踏まえた重要会議に相違なかった

二人の打合せはロングバーションを呈し、そろそろ夜も明ける段になって、最後の”議題”がミカについてだったんだ…