セメントの海を渡る女

その8
麻衣



ミカさんと私は、しばらく、じっと見つめあったままだった

相馬さんのお墓の前で、無言のまま…

「麻衣さん、いや奥さん…。今のあなたの言葉は聞かなかったことにします。いいですね?」

「いえ、一度口にしたことですから、それはダメです。しっかり聞いていただいた。私の中では、そういうこと以外にありません」

ミカさんの顔は、見る見るうちにこわばっていった


...



「そんなこと言われて、わかったわなんて言える訳ないでしょ?一体、どういうつもりなの…」

「そう固く考えてもらわなくてもいいんですよ。あなたのことは好きだから、もしもの時は”そうなって”くれるといいなって、まあそんなもんです」

「はあ…?」

「…私はお世辞とウソは、口にした記憶がないと自負しています。もっともウソの方は、自分に対してってことです。駆け引きとかで利害関係が伴うことでは、毎日のようにウソつきまくりですし…。ハハハ…」

ミカさんは硬い表情を崩さないわ

「あなたはなんて掴みどころがないの…。とても17歳とは思えないわ。でも、嫌いではない。だいぶ年下だけど、魅力的な女性だとも…」

この人もお世辞でつくろうタイプではない

はは…、一応、褒めらてんじゃん

こんな魅力的なお姉さんに(笑)


...



ここで、私はちょと声のトーンを軽めに変えて、やや早口を意識した

「このこと、優輔さんにもそのまま言ってるのよ。折りがあったら、彼にも聞いてみてください。万一、私が急に死んじゃったりしたら、私のこと忘れてって。無論、彼はそんなことムリだよってね…。ふふ…、だから、なるべくでいいからって。そういことになってます」

今度はミカさん、目を点にして、ますます固まってる(苦笑)


...



「その延長線上での、私の希望なんです。今、あなたに頼んだことは。まずは優輔さんが私を失ったとしても、しょぼんとなんかしてもらいたくない。この私の素直な気持ちがスタートなんです」

ここで、微妙にミカさんの私を見る目が違ってきた…

「麻衣さん…、あなたと接する人間は、みな試されるのね。年や性別にかかわらず…」

この人は、若くてこんな特殊な”仕事”で生きている女性だけあって、感性がピカピカだ

ならばこの先、自分が抱くものは、この17歳に対する警戒心になる…

この人は咄嗟にそう感じ取ったはずだ