セメントの海を渡る女

その7
麻衣



さわやかな秋晴れの昼過ぎ、都県境に戻った私は、墓参りに来てる

四十九日には塀の中だったし、その後も何かと慌ただしかったんで、一段落ついたらと心に決めていたんだよね


...



相馬さん…

あなたが逝って2か月かそこらで、私を取り巻く状況は激変しました

ついにここまで来ちゃいましたよ…、ってとこです

このところは、毎日を身震いする思いで、重厚にかつ弾むような気分で過ごしています

天国だか地獄だか、まあ、どっちだかは知りませんが、とにかくあの世でこれからの私、しっかり見ていて下さいね…


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「…どうせですから、一緒に線香を手向けませんか。ミカさん…」

私は膝を折って目を閉じ、墓前で手を合わせてる最中、”後ろ”に向かって声をかけた

「…」


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「さあ…、どうぞ、これ。今、火をつけますね」

「麻衣さん…、わかるの?私がいつも近くに潜んでるのを…」

「…少なくとも、ここは死んだ人ばかりが集まってるところです。自分の近くで、この世の人に視線を注がれていれば、ああ、生きてる人間同士だって…。そういう感覚は研ぎ澄まされるはずです」

私はそう言いながら、ライターでお線香に火を燈し、ミカさんに渡した

「ああ、どうも…。では、せっかくなので、親分さんにご挨拶をさせてもらいます…」

ミカさんの手向けの時間は、心持ち、長かった


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「あのう、私も気が引けたんです。さすがに会長さんの墓前にまで後をつけるのは…。でも、あなた方が西方行脚から戻られて、状況はさらに一層ってことで、言いつかってまして…」

「いいんですよ。ありがたく思ってますから。私なんかのガードの為に…」

「奥さん…」

はは…、まだ奥さんじゃないのよ、ミカさん


...



「…私には、あなたがわからない。正直、もっとわかりやすくなってもらわないと…。私…、何だか、戸惑いみたいなもんが、常に払いきれないままなんですよ」

私は、この人の言ってる意味はなんとなくわかる

それに、嫌いじゃないんだよな、こういう”女の人”…


...



「あなたがこの”仕事”で、どの程度の報酬を受け取るのかは知り得ませんが、あんまり肩ひじ張らないでもらいたいな。これが私の率直な思いです。いざって時は、無理に危険な目に遭うことは避けて下さいねって、そんな気持ちなんですよ。それでいいんです、私としては…」

「あなたが良くても、私にはそれじゃすまないんですよ!…ああ、すいません…。私としたことが…」

「…」

白のポロシャツ、黒のレザーパンツ姿のミカさんは、思わず下を向いちゃった


...



「今のうちに言っときます。たぶん、2度とは口にしないわ。私がもしかした時、あとの優輔さんを頼みたい。あなた、好きなんでしょ?あの人のこと」

「麻衣さん‼」

ミカさんは紅潮させた顔をあげ、歯を食いしばってる

さあ、私の名前だけじゃなくて、なんか言葉をくださいよ、私に

お姉さん…