セメントの海を渡る女

その6
剣崎



「アイツ…、どこの馬の骨かわからないアメリカから来た自分をよう、初対面で信じてくれ、せっかく海外へ逃してくれた自分の命を失うようなことになれば、相和会に申し訳ないと…。それは敵に殺されることだけでなく、事故や病気でも簡単には死ねないとよう、それこそ決死の覚悟だったと思うぜ」

「…」

「だから、海外で命を落とすことなく、たくましく生きてきた自分を日本に戻って俺達の目に届けることこそが、ミカが自分に命じ聞かせてきた義務だったんだろう。それは、俺達が考えてるより、深く重く、そして清らかな心根から産み落とされたものだったんだよ。いや、精神だったんだ」

ミカの産み落としたその精神…

何とも凄まじい限りだ


...


「剣崎…、ミカはお前に礼を言っていたぞ。血の通った言葉をプレゼントしてもらったとな」

”血の通った”か…

「人の命を奪うのではなく、守るか…。よく言ってくれたな、剣崎。俺からも礼を言わせてもらう」

「でも、咄嗟に浮かんだもので、こじつけって気もします」

「はは…、何としてもミカを救ってやりたいって強い思いが導いた言葉だ。こじつけでもよう…、それはミカと同じく、必死でお前が生み落としたメッセージたったんだから、文字通り”血が”通ってた訳だぜ。アハハ…」

「…会長!もう一度約束させて下さい。ミカは必ずココへ戻ってきます。近くまた…。その時には、必ず彼女の表情を変えさせて、会長にお見せします」

「おう、楽しみしてるぞ。俺の目の黒いうちに頼むな、剣崎。ハハハ…」

しかし、その時交わした会長との2度めの約束も、俺は果たすことができなかった…