セメントの海を渡る女

その4
剣崎



「…その延長で、ガードする人間を守るため、やむなく人の命を奪うこともある。だが、自分の命と引き換えにして、”対象”を守る場合だってあるんだ。常に自らの命を捧げる…、そんな覚悟を以って、この仕事に面と向かってるんじゃないか、ミカ。どうだ?」

「ええ‥、まあ、そういうことは言えます」

ミカから帰ってきたボールは、今一歯切れが悪いものだったよ

ちょっと戸惑ってるって感じでもあった

もっとも…、俺の言葉に”反応”はしてくれてるようではあったが…

...


「なあ…、この仕事続けるならよう、いずれでいい。もう一度ウチに戻ってこいよ。その時は、ガードの仕事のみで契約しよう。依頼主の大事な人物の、その命を守る仕事だ。命を奪うのではなく…。誰にでもできる仕事じゃない!…俺はそう思うぜ」

「守る…、人の命を…?」

一瞬、ミカの目の色が変わった

輝いたと言った方が正確かもしれない…

「俺なんぞがきれいごと言ってもしょうがねえが、ヒットじゃなくガードだ。…それを自分に受けいれてもらえれば、お前の表情から俺の取り除きたいものが消え去ると信じてる。…待ってるぞ。いつでも戻って来いな、ミカ…」

「はい…。いずれまた帰ってきます」

ミカの発する口調は、最後までいつもの淡々としたものだった

だが、どうなんだろうか…

冷静に考えてみれば、それは、ミカが自らの素直な心に従って接してくれてる証左と言えまいか…

”仕事中”のミカが、それこそキャピキャピ話してる姿は何度も目にしてる

でも、それは自分を偽り、目的のために演じてるミカに過ぎない

いつか俺は、演じていない年相応の弾けるような、ミカの笑顔が見たいんだ!

そいつを相馬会長にも見せたやりたい…

俺は、そう心の中で叫んでいたよ