その3
剣崎


ミカは顔を上げて、今度は答えてくれた


「…私は多くの人間を、この手で”始末”してきた人間なんです。世界各地で、何か国もの人間を…。26歳という若さでです。やむない選択だったとは言え、それを生活の糧にしてる。生まれ故郷に帰ってきてまで…。人を殺める目的で演じてきた、そんな手段に活かしてきた演技力なんかで、今さら人に夢や感動を与える女優になど、なれる訳ありませんよ…」

「…」

ミカは最後まで淡々としゃべっていた

俺はもう、完全にノックアウトを喰らったわ

いや…、そんなことで引いちゃならん

ここで俺が俯いて、ただ肯定してしまったんでは、ミカはいつまでもこのままで生きて行くことになる

キザなようだが、この時は目の前にいる26の若い女を、何としても救ってやりたい気持ちが俺を占領していた


...


「ミカ…、俺も社会からはみ出したアウトサイダーだ。人生の大半をそれで生きてきたし、おそらく一生だろう…。時々、己を消したくなるほど自分への嫌悪感に襲われるよ。立場的にいつも権謀術策の中に身を置いて、時には人の尊い命を奪う冷淡な決断からも逃げることは許されない。しんどいさ…、正直なところ」

「剣崎さん…」

「…常にそれとの戦いってことなんだ、俺の毎日は…。だからこそ、自分以外の人間が、同じようなしんどい思いをしてる姿を目にするのが辛い。とてもな…。ましてやお前はオンナだし若い。とても見るに忍びないんだ、俺も相馬さんも…」

これは俺の本音だった

偽りなく…

...


「…今、お前から聞いた”告白”に、俺などからは大したことは言ってやれない。だが、どうなんだろう…。お前が行きついた今の”仕事”、人を消すことだけか?違うだろ。ある人物を然るべき敵から守るってことも含まれるんじゃないのか、お前が請け負うミッションには。お前はそれに命を張る。それ、文字通り命がけの仕事だって!」

「…」

だが、ミカは例によって、俺の顔に視線を固定させたまま、黙っていた

あの表情…、冷めた悲しげな瞳で…