その7
剣崎



「ミカ、とにかく無事に日本へ帰って来てくれて嬉しい。お前がこの5年間に異国の地で磨いた腕、俺たち相和会の為に尽くしてくれるなら、もろ手を上げて歓迎する。以上で、俺の面接は終了だ。どうだ?一緒に上京して、相馬会長に会ってみないか?」

気が付くと、俺はいきなりミカを畳みこんでいた

これもなぜだろうかと、今だに自問自答してることのひとつだ

ミカはその場で「はい」と力なく頷いてたよ

しかし、ここでの、その”なぜか”はわかってしまったんだ

なぜか…


...


凱旋帰国を果たした鹿児島ミカを、相馬会長は歓迎した

ミカには告げなかったが、相和会ではミカの消息は、だいたい追いかけていたんだ

その結果、銃と投げナイフの腕を駆使しての”雇われ”で、法も秩序も日本とは雲泥に差があるアジアや中東地域を流転しながら生計を立てている外輪は掴んでいた

しかしもってだ…、まだ20代半ばの若い女が、例え生きる手段とはいえ、そんな選択をせざるを得ないなんて…

相馬さんとは、はっきりとミカについてじっくり語ったことはなかった

だが…、抱く思いは一だったろうよ


...


「ミカ、とにかく今日は本部に泊まれ。なんなら、日本酒でも飲むか、これから。少しなら相手するぜ」

「剣崎さん…」

ミカは自分の海外逃亡を手引きしたことで、相和会がアメリカのマフィア組織を敵に回す結果を招いた5年前をしきりに気にしていたよ

「あの時の相馬さんはギンギンに燃えていたよ。第3次太平洋戦争だと言って張り切っていた。結果も実質こっちが勝ちだったしな。ハハハ…」

「…」

俺は特段、ミカの心情を繕って作り話をした訳ではなかったが、彼女の顔つきは何とも複雑そうだったよ

きっとミカはこの5年間、ずっと異国の地で相馬さんがなぜそんな大きなリスクを背負ってまで、自分を逃したのか…

そう、自問自答してきたことだろう

俺はあえて”そこ”には触れなかった

だが、相馬さんは過酷な生い立ちと戦ってきた、この若い日本人の女を単純に応援したかったからだったと思う

そんなささやかな願いの元に、あの人はいつも命を懸けてる

いずれミカにはあの人の、そんな稀有な感性、そして、常人の決死て成せないぶっ飛んだ死生観を伝える必要があるかもな…


...


その後も俺達はいろんな話をした

笑いも交えて…

だが、ミカが心の底から笑っていないのははっきり汲み取れた

とは言え…

結局、俺たち二人はその夜、一升瓶を空にしちまったわ

はは…

ミカは酒豪だったのか(苦笑)