その6
剣崎



北から吹きつける風の強い、どんより曇った昼過ぎ…

熊本城に着くと、約束の場所にはHさんが”女性”を連れて待っていたよ

「よう、剣崎…。えらいしばらくやな」

「ああ、Hさん。大変ご無沙汰してます」

「ハハハ…、相変わらず相和会を切り盛りして大活躍らしいってな。結構なことだわい。…ああ、早速だが、”この人”が今日の面接相手だよ。まあ、初対面じゃないのは承知しておるが(苦笑)」

鹿児島ミカか…!

「その節はお世話になりました。剣崎さん…」

間違いなかった…

何と、俺の面接する用心棒とは、あのミカだったのかよ…

...


彼女は、その年の初めには日本に戻っていたらしい

要はその間、雇われで”仕事”をしていたと…

夏が終わり、契約期間を終えたので、次の”就職先”を探していたところ、この業界のBOであるH氏に辿り着いたということだったが…

ミカはH氏と会って最初に、”東京埼玉県境の相和会をご存知ですか?”と尋ねてきたそうだわ

いや、今まで雇われ先を斡旋してくれた人物には、決まって同じ問いかけをしていたらしい

そう…、ミカは確信犯だった訳だ

そして…、冬の到来が近くなったころ、やっと追い求めていた”アンサー”をHさんの口から聞き出すことが出来たと…

...


「…なるほどな。H氏には”全部”話した上でだったのか…。でもよう、何で直接、相和会を頼ってこなかったんだ?」

「恐かったんです。…5年前の九州では役者の道を目指すなんてカッコいいこと宣言して、再会したら海外で場数を踏んだ女スナイパーに成り果てたとあっては、怒られるんじゃないかと思ってましたから…」

久々に会うミカは、確かに大人の女性になってはいたが、俺が初めて接した時と全く”同じ”に感じた

なんでだろうか…

”ある部分”がミカから抜けきっていない

漠然とそんなところが原因だろうとは思えたんだが…

だが…、じゃあ、そこの部分とは何なのか

そうなると、当時の俺にはわからなかった…