その2
バグジー



ミカとは激しく愛し合った

そして最後までイッた…

「…お前には正直に言っておきたい。俺は性同一性障害でさ、女の内面を持ってるんだ…」

「えっ…?だけど、今はあの…、ちゃんと最後まで…」

「ああ、自分でも意外だった。初めてではないが、身も心もここまでイッちまったことはなかったんだ。今までな。だから、どうなのか…」

「バグジー、あなた…、私が好き?」

「ああ。目と目が合った瞬間、好きになったよ。女としてのミカを…」

「それなら、私はそれでいい。これから、あなたとはいろんなことを話したいのよ。マジメなことだけじゃなくて、くだらない話題で笑いあったとかもフツーにしながら…。どう?」

「いいな。麻衣を守り切ったら、二人でどこか行こう」

「どこか…って、例えば?」

「俺の生まれ故郷の信州…。千曲川の下流なんだ。いいとこだよ。そこへ、まず連れて行きたいな。リンゴがうまいぞ」

「ふふっ、そうね…。波の音だけじゃなくて、川のせせらぎにも浸って少し気持ちの持ちようを変えたくなったわ。でも、冬になると寒いんでしょ、信州って…。私、寒いの苦手なのよ」

「おお、そうか…。じゃあ、真冬になる前に行くか?」

「うん。行くわ、一緒に…」

何とも心和むひと時だった

こんなたわいのない会話で、こんなにも心が癒され、弾むものなのか…


...


「そうか…。そんな凄惨な現場を見せられたんじゃな…。ヤワな男なら気分が悪くなってぶっ倒れるな。お前もさぞ、しんどかっただろうに…」

「うん…」

相和会による裏切者への”処置”は、3時間近くにわたったらしい

ミカはその場に立ち合わされ、一部始終をその目に刻まされたとのことだ

こんな若い女に、何とも残酷な話だ…

「…剣崎親分は、私にこの仕事を断念させようと思ってるわ。正直、私もそろそろって気にもなりかけていた‥。でも、他の道を歩んで行くことも不安だったし、実際迷ってたんだけど…、今日、あなたに会えて気持ちに踏ん切りがついたかな…」

ベッドの横で私の胸元に顔を埋めながら、ミカはどこか弾むような口調でと語っていたよ

「でも、麻衣さんを守るこの仕事は最後までやらなくちゃ…。バグジーと協力してさ…」

「ああ、そうだな。オレとて、何としても麻衣をな…」

まずはミカと”それ”をやり遂げる…

結局、明け方までミカとホテルのベッドの中にいた

浅い眠りの中では、ミカの寝息が波の打ち寄せる音と重なって、海岸にいるようだった


...


「…そうなの。あなたの中の女の自分は、”同居”する男より凶暴って訳ね。その女の自分を否定せず正直に生きることが、今のあなたの生き様に辿り着かせた…。”猛る女”伝説の地に今いるのも、必然だったのかもね。なぜか、あなたのことはしっくり理解できるな、私には…」

「お前がそう捉えてくれる人間だと、昨日会った途端感じたよ。だから、すぐに愛してしまった。そして、お前の体を抱いた。失いたくなかったんだ。やっと出会えた、互いを分かり合える”女”を…」

「私も同じ感覚だったかな、最初にバグジーの目を見た時って…。ただ、昨夜あなたと結ばれた後も、やっぱり男として接してるし、男性としてのバグジーを愛してるわ」

「…ああ、その気持ちは伝ってくるさ。当面、これでいいんじゃないか?なあ、ミカ…」

「うん。そうよね、ハハハ…」

千葉から戻る車の中で、助手席のミカは開けっぴろげに笑っていたわ

どこかカゲは感じられるが、それは私がコイツの背負ってきた過去を意識してなのかも知れない

ふとそう思うと、こんなにいい笑顔を見せてくれたミカに申し訳ない気がした…


...



「じゃあ、また後でね。よろしく…」

ミカの車が止めてあった駐車場に着くと、助手席でミカはこっちを向いて元気にそう言った

そして、両手は下ろしたまま、唇を重ねてきた

私も、それには唇だけで受けた

「伊豆に行って、麻衣さんと倉橋さんの婚約披露を目にする前、あなたと愛し合えてよかった。感謝してるわ…」

車を降りたミカのその言葉には、無言で頷いただけだった

だが目では、”俺もだ!”と力強く応えていたのを、こいつには伝わっただろう

そう確信できたよ

ミカの感性は、麻衣が死を乗り越えるほどの想いで撲殺男を愛していると、受け止めていたはずだ

その上で、仕事として麻衣に寄り添っていたんだ、アイツは…

そのミカが、これからは自らも恋する女として麻衣に接することが出来る…

オレには、そのことが無性に嬉しかった

このオレだけでなく、ミカも長年自らに課してきた呪縛から”解放”されたということが…

なによりも…