その7
剣崎



現地に到着し、前回と同じ一階のフロアに入ると、鹿児島ミカはそこにいた

立っている位置もこの前と同じで、窓を背にしているが西日はまだ訪れていない

だが、彼女の顔はあの時と一緒だったよ

その視線は、すでに俺の両の目へと届いていた

このすがりつくような目…

わずか数日ぶりなのに、なぜだか懐かしい気がした

不思議なもんだ…


...


「先日はどうも…。待たせたかな。…ああ、この前は持ち合わせてなかったんで渡せなかったが、俺の名刺だ。受け取ってくれ」

俺は数歩前に出て、ミカの目を見つめながら、名刺を故意に裏返してから右手で差し出した

俺のアイコンタクトは彼女のその目に達したようだった

名刺を受け取ると、その視線は手元に下がった

そして両眼に俺のメッセージを映しているようだ

”先日の申し出は了解した。この前のように、ここで人の目を気にせず話せるのか?”

文言はわずかこれだけだったが、ミカは単行本1ページを読み終えるくらいの時間をかけ、名刺裏にじっと目線を落としていた

俺は返事を待った


...


数分して…、彼女はようやく顔を名刺から俺の方へと戻してくれたよ

そして穏やかな口調で答えてくれた

「監視はいませんから、安心してください。なんでも話せます。…その前に、こんな私を信じてくれて、本当にありがとうございます…」

そう言って彼女は下唇を噛むと、俺を見つめる二つの瞳から現れた涙がゆっくりと頬を下っていった

この瞬間、目の前のミカが連中のグルなんかではないことを確信したよ

もちろん、俺の立場では最後まで気は許せない

当然ながら…

そのチェックはこの後も欠かすつもりはない


...


「君が今日まで辿ってきた、海の向こうでの壮絶な道のりは知り得た。…その調査精度から鑑みて、我々の解釈はほぼ正確だと自負してる。それを踏まえ、君からはいろいろと聞かねばならないことがあるんでね。協力願えるか、ミカさん?」

「はい。…もうご存知でしょうが、鹿児島ミカです。ミカ・ウィルキンソンはあくまで”仮の私”ですので、初めにご承知ください」

”仮の私”…

この言葉をミカの口から聞いて正直、ホッとした

彼女がこれから話すであろう諸々のことの色合いは、これで定まったと言えるからな

さあ、全部を聞かせてくれ、ミカ!

今日は、俺にすべてを吐き出せばいい…