セメントの海を渡る女

その3
剣崎



そこまでは当初から想定していたのだが…

要するに占有者が若い日本女性だということで、何やらウラがあると…

”相手”は、こっちの出方次第で何か仕掛けて来るのは目に見えているのだから、あの若い女は何をどこまで託されているのか…

そこが核心になると…

そして、俺が北九州の当該ビルに辿り着くと、ああいった局面となった

会長がこの段階で”思案”を巡らせていたのは、ヒシヒシと伝わってきたよ

この人は、”いろんなところ”まで目が行き渡っている

その心も…


...



少なくとも、相和会のトップの立場の人間が、俺にSOSを発信したあの若い”日本人女性”の気持ちを排除していない

俺は、”そこ”一点だけでもジンと胸が熱くなっていたさ

とにかく、女の素性が明らかになれば色々と見えてくる

なぜ彼女が俺をやくざと分かってまで、逃亡を乞うてきたのかも…

それは目の前の相馬さんの胸中だって一緒だろう

ところが…


...


相馬会長は、この段階で数歩先を想定していたんだ

いや‥、想定じゃなく、すでに前提と捉えているようだった

「…俺の見立てじゃあよ、剣崎…。”その際”となった場合、奴ら、日本国内との親善関係でってところだろうよ」

「…会長!では、関西のI組あたりですか、出張ってくるのは?」

「ああ、間違いねーだろうよ。売国奴の惹起が放つ異臭はよう、遠く数百キロをまたいでくるんだ。もう、こっちにはプンプンだって。…剣崎!もし、こっちに米日のクソ野郎どもを駆逐する”大義”が掘り出せたら、やってやるぞ!第2次太平洋戦争だ!!」

俺はこの時の相馬さんの表情を、とても神々しく感じた

単純に嬉しかった…