夢見が悪かったせいか、寝汗を掻いていた。

年末から忙しくて身体は充分に休めていない。
強行日程のリヨンへの往復は、心身共に
レイノルドを蝕んでいた。
帰国して王都まで、大夜会の前には到着出来る
様に駆け抜けた。

レイノルドの主アシュフォードの想いびと
アグネス・スローンのデビュタントを兼ねた
新年大夜会。
それに間に合う為に、食事と短い休憩以外は
必死に馬を走らせた。

レイノルド・マーシャルにとっても、昔馴染みの
のアグネスのデビュタントは大変喜ばしい事で
あったから、気力体力の限界まで酷使されるのはやぶさかではなかったが。


だが、心のどこかでは。
大夜会に参加したくない自分が居る。
だから、こんな時間に目覚めてしまった。



リリアン・ロイズナー。
レイノルドの別れた妻。
彼女も今夜の大夜会に出席すると、共通の知人
から聞いていた。
結婚したのは3年前、離婚したのは2年前。
どちらも、言い出したのはリリアンだった。


レイノルドとリリアンの結婚は1年しかもたなかった。
いや、実際は1ヶ月。
結婚式からレイノルドがリヨンへ旅立つまでの、約1ヶ月。

『子供が居たら、耐えられる』と、ねだられて。
時間の許す限り濃密な時を過ごしたが、彼女は
身籠らなかった。
たった1ヶ月だけの妻だった。