王城に戻られる殿下を見送って。
『すっかり遅くなってしまったわね、お食事にしましょう』そう言って、一足先に食堂へと向かった母に続いて姉も歩き出したので。


「なぁに? アグネス?」

私が後ろからいきなり肘を掴んだので、姉はとても驚いていました。


「これからは殿下ではなくて、フォード様と呼ぶ事になりました。
 お姉様はお気付きになりました?
 フォード様の左手」

「……左手、あぁ見たわ、黒い……」

「フォード様にトルラキアでいただいた、これです。
 私もお返しにお贈りしたくて、お揃いを注文していたんですけれど、この前リーエが送ってくれたので、さっき温室でお渡し出来たんです」


自分だけの愛称呼びを報告して。
左手首に巻いた赤い組み紐を、姉に見せて。 
温室で、お揃いのそれを殿下に渡した、と強調して。
それを聞いた姉の反応を見たかったのに。
……なんて、憎たらしいのだろう。
少しの動揺もなく。
ニコニコして、臆面もなく言うのです。


「お揃いなのね、いいわね。
 凄く素敵で、羨ましいわ。
 トルラキアって、そういうのが盛んなの?」