北川さんは俺の腕の前で、
みかんを持ったままかたまった。
「早くそれ食べたいだろ?」
北川さんは頷く。
「じゃあ、なんかしゃべって」
「……しゃ…しゃべれない…」
「なんで?」
「……だって、ドキドキして…」
「ん?」
「加瀬さんと目、合わせられないですし…」
「俺がキスしたから?」
「……はい」
じゃあ、北川さんは怒ってるわけじゃないんだな?
「…分かってるんです……
加瀬さんは私を慰めるために
キスしてくれたんですよね…
加瀬さんのことだから、
きっと色んな女の子と
普通にキスしてるんだろうけど…
けど…私は…すごくドキドキして…
ずっと加瀬さんのことばかり
考えてしまって…
そのお陰で、悲しいこと考えないで済んでるんですけど…」
ん?何かひっかかった。
色んな女の子と
普通にキスしてる?
「普通にキスって何?」
「へ?えっと…
普段から色んな人と
キスしてる…のかな?って…」



