翔さんから連絡があって、戸川さんを連れて来ると言う。
なぜ?どうして?
正直なところ、心臓はバクバクだった。

先日、戸川さんにズタズタに切り付けられた心の傷口がまだ疼く。

心配と不安と恐怖…しか無いけど、
翔さんも一緒に来てくれるのなら、きっと悪い話では無い筈。
気持ちを落ち着かせて、待つしか無い。


10分程で到着したらしく、戸川さんがこちらに歩いて来るのが見える。
今日も、7センチのピンヒールを履いてコツコツと公園に似つかわしく無い音が響く。

ドキドキと果穂の心拍数も上がっていく。

「こんにちは、いらしゃいませ。」
笑顔で出迎える。

「こんにちは……。
あの…みかんパフェを、下さい…」

「はい、今日はお暑い中わざわざご来店ありがとうございます。
お代は頂けませんので少々お待ち下さい。」

「いえ、払わせて下さい。おいくらですか?」
先日とはうって変わってなんだかオドオドして見える。

「すいません。
私の一方的な思いなんですが、翔さんの会社の社員さんには無料で提供させて頂きたいんです。」

「…どうして、ですか?」

「日頃から会社の為に頑張って下さっている社員さんに、少しでも労いたいと思っています。」

この場所でお店を構えた時から思っていた。
私に翔さんを助ける力は無いけど、少しでも会社の為に何かしたいと。

「あの…この間は貴方の事を、よく知りもしないのに酷い事を言ってしまって、申し訳けありませんでした。」

突然、戸川が頭を下げて果穂に謝ってきたので、びっくりしてしまう。

「いえ、あのご指摘して頂いた事は、その通りだと私自身も思っています。
私には何も無いから…彼を助けてあげる力も、守ってあげる力も。
ただ隣にいる事しかできないんです。

でも、彼が私を必要としてくれるのならば、努力して少しでも周りに認められる人になりたいと思っています。」

彼女に少しでも伝わっただろうか?