勘の鋭い翔は、果穂のそんな一瞬の表情でも見抜き、顔には出さないが怪訝に思う。

「そう言えば、向田部長のトラブルはどうなったんだ?」
翔は、探る様に戸川に話しかける。

「先程、部長から連絡がありまして、機械を台替わりして何とかなりそうだと報告がありました。」

「そうか、分かった。
戸川はもう帰ってくれていいから、お疲れ様。」
翔は素気なく対応して、戸川に帰るように促す。
この瞬間に、果穂が戸川に怯えていると察する。

「じゃあ、俺らも帰るか。
新田、夕飯食って帰ろうぜ。戸川さんも一緒にどう?」
雅也が2人に声を掛ける。

「いいですねー。
もちろん副社長の奢りでしょ?
俺、肉がいいです。焼肉行きましょ。」
新田は誘いに乗ってそう言う。

「…私はさっぱりした物がいいです。」
戸川も誘いに乗ったようだ。

「そうかじゃあ、ラーメンにしよう。
駅前にあるラーメン屋旨いんだよ。」

「えーー、肉がいいっす。」
新田の喋りが突然プライベート仕様になって、果穂がちょっと驚いている。

そんな果穂を見て翔は笑いながら、
「こいつ新人類だから、プライベートと仕事の落差が激しいんだ。ついていけないだろ?」

そう言って、当たり前のように果穂の手を取り歩き出す。

廊下を皆んなで歩きながら、翔は素早くスマホを打ち込む。

送信先は雅也。
『果穂の様子が変だ、戸川を探れ。』

雅也のスマホが震えて内容を見る。

雅也が何気に翔に視線を合わせ、目で了解の合図をする。
この間約、15秒。

ここにいる誰もが気付かないくらいのスピード感だった。