「最近、仕事が楽しいんでしょ?大きな商談も任せてもらえて、出張に行くのだって楽しいって言ってたじゃん。」
「…私の仕事なんて…蓮司の仕事に比べたらちっぽけだよ。代わりなんていくらでも…」
「スミレちゃん!」
蓮司がまた遮る。
「スミレちゃんの仕事はちっぽけなんかじゃないし、代わりなんていない。いつも真剣に絵を見てくれたし、あんなに目を輝かせてレターセットのこと話されたら、俺だって買いたくなるよ。」
「でも…」
「この間…俺が暴力沙汰を起こしかけたとき、冷静になって本当にゾッとした。スミレちゃんから大事な仕事を奪いかけたんだ…って。4年前…俺の個展で仕事頑張ろうって思ってくれたのに、今度は俺がそれを無くそうとしたんだって。」
「………」
「スミレちゃんがニューヨークに行くなんて考えなかったのは、仕事が充実してるからでしょ?」
「そう…なのかな…」
「だから、ニューヨークなんて行かなくていい。」

『………』

しばらくの間、沈黙が続いた。
「この話は終わり。」
蓮司が言った。
「帰ろ。」
「………」
歩き出す蓮司に、菫はついていこうとしない。
「スミレちゃん?帰ろ?」
「…そんなのおかしいよ…」
菫が言った。