——— 本当は行きたいんじゃないの?ニューヨーク。

菫の質問に、蓮司は一瞬固まった。
「いや、俺は…」
「行きたいから、私に話したんじゃないの?」
「………」
「なんで断るの?私にはよくわからないけど…ニューヨークで実力を試せるって、すごいチャンスなんじゃないの?」
「……うん、それはそう。」
蓮司は(うなず)いた。
「じゃあ…」
「………」
「蓮司?」
「…スミレちゃん、一緒に行ってくれる?」
「え…」
「やっぱり。一緒に行くなんて、全然考えなかったでしょ?」
「………」
「正直、自信ないんだ…」
「え?」
「スミレちゃんがいない場所で描ける気がしない。」
「え、そんなわけ…」
蓮司は首を横に振った。
「サクラがいなくなって…いや、弱り始めてからだから…あの頃、3ヶ月くらい本当に何も描けなかった。だけどあの日、スミレちゃんに会って…久しぶりに描きたいって思った。」
「………」
「あの日からずっと、スミレちゃんが近くにいたから描けたんだ。」
「………」
「スミレちゃんがいない空間で、絵なんて描けない。」
「…じゃあ…私も…ニューヨークに行ったら描けるの?」
蓮司は(うなず)いた。
「なら…」
「ダメだよ。」
菫が言いかけたのを、蓮司が遮った。