蓮司は桜の前に立った。
「桜さん」
「………」
「あんたのした事は、今でも許してないし許す気もないけど…桜さんには感謝もしてるよ。」
「感謝?」
「カメラだって、画像補正だって、ちゃんと教えてくれたから今でも仕事ができてる。あの個展だって、本当にあんたのおかげだよ。あそこから繋がった仕事もあったし。」
「………」
「あの時の作品も、別に返してくれとも金払えとも思ってない。こんな記事載せなくても、あんたが余計なことしなければ…作品価値が上がるように作家活動してるから安心してよ。だから…」
「だから?」
「もう俺の人生に関わらないでよ。あんたのその名前で、俺に罵らせないで。」
蓮司は悲しげに笑った。
「訂正記事もいらない。時間とって悪かった。」
そう言って頭を下げると、蓮司は泣き続ける菫の手をとって部屋を出た。

「よく泣くなぁ…」
建物を出てからも菫は泣いていた。
「…だって…」
蓮司は菫を抱きしめると、頭を撫でた。
「ごめんね。」
菫は蓮司の胸の中で首を小さく横に振った。
「蓮司が…なぐらなくてよかった…」
「うん」
「…スマイリーのごはんがなくならなくてよかった…」
「うん、そんなことになってたら大変だったね。」
「……よかった…」
「ありがとう、スミレちゃん。」