「学生のうちに個展ができたのは桜のおかげだろ?絵じゃなくて顔が良かったから声かけてもらえたんだよ。お前だっておいしい思いしたんだろ?」

———ガタッ

蓮司が田井ノ江のシャツの胸ぐらを掴んだ。
「蓮司!ダメ!」
菫が不安そうな声をあげる。
「何が訂正記事だよ。大した実力もない二流のくせに大物気取りやがって。載せてやったんだから礼くらい言えよ。」
菫には、田井ノ江に殴りかかる蓮司の拳がスローモーションのように見えた。

———バッ

菫は必死で蓮司の振り上げた拳を両腕で掴んだ。
「離せよ」
興奮した蓮司は菫に対しても言葉が荒くなっている。
「ダメだよ蓮司!」
(力が全然足りない…どうしよう…えっと…えっと…蓮司が落ち着くこと…)

蓮司が菫の腕を振り払った。

(あ…ダメ…!)