「これ、読んだよ」
「気に入ってもらえた?イケメンアーティストの一澤 蓮司サン。」
いちいち煽るような言い方をする海老原に、菫はハラハラする。
「次号に訂正記事載せてよ。それで全部水に流すから」
(え…)
声から怒りは感じるが、蓮司は菫が思っていたよりずっと冷静なようだ。
「訂正記事?どこも間違ってないのに?」
「………」
海老原は記事を取り下げる気がないようだ。
「一澤さん。」
男性が蓮司のそばに寄ってきた。
「私、こういうものです。」
「編集長…」
男の名刺には【週刊春秋編集長 田井ノ江(たいのえ) 康二(こうじ)】とある。
「編集長ならできるでしょ、訂正記事。」
「一澤さん、せっかくならこれを機に我々と仕事をしませんか?」
田井ノ江の提案に、蓮司の目元が小さくピクッと動いた。
「海老原とあなたが知り合いだったのも何かの縁だ。うちの雑誌で連載しませんか?顔出しで。大々的にプロモーションもしますから、話題になりますよ。」
「あんた何言ってんだよ」
蓮司の声に苛立ちが混ざる。
「あら、いい話じゃない。連載で知名度が上がるのはアーティストとしてプラスになるでしょ。うちの雑誌だって蓮司がタレント的に人気が出れば売り上げが上がるし。」
「……そういうことかよ。」
蓮司が呟いた。
「桜さん、あんた今コイツと付き合ってんだ?相変わらず男のために他人を利用して、健気だな。」

———ハァ…

蓮司が呆れたように溜息を()いた。
「とにかく訂正記事さえ載ればもう文句言わないから」
蓮司は部屋を出ようとした。
「女の力で売れたくせによく言うよな。」
田井ノ江が呟いた。
「は?」

蓮司の目つきが変わった。