———プルル…
『はい』
「蓮司?」
『スミレちゃん?どうした?』
いつも通りの蓮司の声が聞こえる。
「今からそっちに行くから」
「え」
それだけ言って電話を切った。

(…あの人、あの時…)

———バンッ!!!

蓮司は週刊誌を見るなりテーブルに叩きつけた。
蓮司の反応は予想していたが、思わずビクッとしてしまう。
「あいつ…」
蓮司が苦々しい顔で言った。
「これってこの前 あの人がここに来たときの…」
蓮司は(うなず)いた。
「こんなインタビューも受けてない。他の雑誌のインタビューを切り貼りしてるんだと思う。」
「あの人、なんでこんなことするの…?」
「単純に…今、作品の露出が増えてて顔出ししてない俺の記事で金稼ぐのと、それで俺の顔の露出を増やして、メディアに引き()り出して…持ってる作品のネームバリューを上げようとしてるんだと思う。作品の良し悪しなんて関係なく、ね。」
冷淡さも感じるほど冷静な口調の蓮司だが、手には力が入り、怒りに震えているのがわかる。
“つくられた”インタビューの見出しには『イケメンアーティスト』という蓮司の最も嫌がりそうな、作品には何の関係もない言葉が強調されている。
掲載されている作品の色さえ、原画と似ても似つかないような色だ。
(こんな風に人の気持ちを踏み(にじ)る人がいるんだ…)
菫は怒りを通り越してショックを受けていた。

———ガタッ

菫は物音にハッとした。
蓮司が上着を羽織り、出かけようとしている。