翌朝
蓮司はまた朝から絵を描いていた。菫は出勤前の時間、ガラスのコップに入れた炭酸水を飲みながら蓮司の筆の動きを目で追っていた。
「なんかスミレちゃん、猫みたい。」
「筆の動きを見るのは猫じゃなくてもおもしろいよ。蓮司の手がスーッて動くのがきれい。」
菫は無邪気に笑った。
「今朝ね、蓮司の髪と同じ色した長毛の猫が夢に出てきたの。サクラかな。」
「サクラだね。」
蓮司は微笑んだ。
「猫だけど、蓮司に似てた。夢の内容はよく覚えてないけど、“蓮司に似てるな〜”って思ったのだけ覚えてる。」
「なにそれ。」
「わかんない。」
二人一緒に笑った。

「今夜も来ていい?一回帰るから遅くなっちゃうけど。」
出勤間際、菫が言った。
「…ダメ。」
「忙しい?」
「そうじゃなくて、俺のために来ようとしてるでしょ?もう大丈夫だから、今日は自分ちに帰って休んで。」
「自分の家じゃ眠れない気がするの。蓮司のことが気になって。」
「………」
「スマイリーにも会いたいし。」
「………」
「あ!金平糖…一緒に食べたい。」

———はぁ…

「しょうがないなぁ…」
「ふふ いってきます。」

その夜は二人で金平糖を食べて、蓮司が菫を抱き枕のように抱きしめて眠った。朝、菫が蓮司より早く目を覚ますとスマイリーも蓮司にくっついて眠っていた。