(本当は個展をひらいて欲しいけど、あんなこと知ったら簡単には言えない…)
アトリエで蓮司の作品を見ながら、菫は悲しさや怒りなどが入り混じった複雑な気持ちになっていた。
———ミャア…
「スマイリーにもわかったんだね、あの人がどんな人か…」
菫はスマイリーを撫でて抱き上げてキスをした。
(蓮司がもう傷つかないといいな…)

「染色職人さん、どうだった?」
夕飯どきになり、二人で食事をしながら菫が聞いた。普段通りに過ごそうと努めている空気を蓮司は感じとった。
「なんか…ザ・職人みたいな、頑固一徹(がんこいってつ)って感じだったけど、こっちがめちゃくちゃこだわりたいって伝えたら協力してくれて、職人魂ですげー頑張ってくれたよ。俺もちょっと触らせてもらった。筋がいいって褒められた。」
「器用そうだもんね。出張に行った甲斐があったね。」
「うん。良い商品になると思うよ。」
「でもそんな銀色の髪で背が高い人が来たら職人さんもびっくりしちゃうね。」
たわいない会話が続いた。
「そういえば、お土産買ってきたんだった。はい。」
菫の手のひらに白い巾着型の袋が置かれた。
「なぁに?これ。」
金平糖(コンペイトウ)。職人の手作りのやつ、京都でしか買えないんだって。」
「へえ〜」
菫の目がキラキラ輝いた。
「あ、これ…」
「うん、きれいでしょ?スミレ色だなって思って。ぶどう味だからぶどう色だけどね。」
菫は「ふふっ」と嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」

「スミレちゃん、今日も泊まって。」
帰り支度をする菫に蓮司が言った。
「え」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど…」
(日曜にこんなこと言うの、珍しい…)