蓮司の声がすると、スマイリーが玄関に走っていった。
「なんだよスマイリー。そんなに寂しかった?」
抱き抱えたスマイリーに話しかけながら、蓮司がアトリエの中に入ってきた。
「スミレちゃん、なんかスマイリーが…」

———パシャッ

というシャッター音と、フラッシュの光が蓮司を迎えた。
「お帰り、蓮司。」
海老原がわざとらしい笑顔で言った。
「………」
蓮司は一瞬呆然としたような表情を見せた。

「……っんで、あんたがいんだよ!?」

振り絞るような声から、怒りのこもった声に変わった。
「どのツラ下げてここに来てんだよ!!出てけよ!」
菫は蓮司のあまりの形相(ぎょうそう)に、思わずフリーズしてしまった。
「こわ〜い。久しぶりなのに。」
海老原は笑っている。
「二度と会いたくなかったよ。さっさと出てけよ!!」
「はいはい。あー怖。」
海老原は荷物をまとめて出て行った。
蓮司は怒りのこもった表情でしばらく立ち尽くしていた。
「…クソ…ッ」
蓮司が吐き捨てた。

「…蓮司…スマイリーが…怯えてる…」
菫の言葉に蓮司はハッと我に返った。
「スマイリーっていうか、スミレちゃんが怯えてんじゃん……ごめん…」
菫は涙目のまま無言で首を横に振った。
蓮司はスマイリーを抱えたまま、菫を抱き寄せて頭を撫でた。
「ごめん…」
(…あの人…蓮司の心の(トゲ)…だ…)
蓮司の泣きそうな表情を見て、菫の女の勘が(ざわ)ついていた。