菫の身体は、背の高い蓮司に抱きしめられてすっぽりと包まれていた。
以前に、泣いている蓮司に肩を貸していたときは小さく感じた身体が、今はとても大きく感じる。
(あったかい…)
菫の(ひたい)から、(まぶた)(まなじり)(ほほ)、と順番に蓮司の唇が触れる。
「あ、だめ…」
次に触れられるところを想像し、菫は思わず顔を(そむ)けたがすぐに蓮司の手に捕らえられる。
「ダメじゃない」
蓮司は蠱惑的(こわくてき)な声で言うと、菫の唇に触れるようなキスをした。
「ん…」
キスが深くなる。菫の手が、不安げに蓮司の服をぎゅっと掴む。
「かわいい…」
そう囁いて、蓮司は何度も何度も(むさぼ)るようにキスを重ねる。
「息、できな…」
「しなくていいよ」
蓮司が艶っぽい声で言うので、不慣れな菫は崩れ落ちそうになってしまう。
(…頭がふわふわする……)
「そんな表情(かお)されたら、止められないよ」
「一澤さ…」
「蓮司」
「…」
「蓮司って呼んで。スミレちゃん、下の名前で呼び捨てとかしたことないでしょ?」
「…れんじ……っ…さん…」
「ダメ、“蓮司”」
菫の往生際の悪さが蓮司を煽る。またキスを繰り返す。
「…ん…蓮司」
「よくできました」
蓮司がいたずらっぽく笑った。
「これから、そういうスミレちゃんの“トクベツ”は全部俺にちょうだい。」
菫の顔は真っ赤になっていた。
「俺のものになってよ。」
蓮司が菫の瞳を覗き込んで言った。
菫の心臓はこれ以上早くならないだろうというくらいの鼓動を繰り返していた。
「蓮司…のトクベツ…は?」
「え?」
「私も…蓮司の…トクベツが欲しい…」
菫の潤んだ瞳を見て、蓮司は優しく微笑んだ。
「スミレちゃんにしか触れない。」
「……もっと…」
「スミレちゃんにいっぱい、絵描くよ。」
「………足り…ない」
「わがまま。」
蓮司は笑った。
「そうだなぁ…スミレちゃんにだけ、サクラの話聞かせてあげる。」
「…蓮司の泣き顔もついてくるなら、それで勘弁してあげる…」
菫は蓮司にぎゅ…と強く抱きついた。
お互いの心音が混ざり合うのを感じた。