蓮司のアトリエは平家建ての倉庫のような建物だった。
コンクリート造りの室内には高い天井の天窓から光が取り込まれていて部屋が白いくらいに明るい。
そして蓮司の作品のキャンバスが壁に立てかけられていたり、床に無造作に置かれている。
「作業台のとこ、テキトーに座っといて。お茶とかないから炭酸水でいい?」
「あ、おかまいなく…」
菫は蓮司の作業台兼テーブルらしい木製の長机の端に置かれた椅子に腰掛けた。
一澤 蓮司の、というよりアーティストのアトリエに入るのが初めてのため辺りをキョロキョロと見回してしまう。
(レモン、パパイヤ、バラ、ラフランス、アネモネ…やっぱりカラフルでいいなぁ。あれ?でも…)
「なんか気になるもんでもあった?」
炭酸水のペットボトルとサングラスを長机に置くと、菫と長机の角を挟むように座って蓮司が言った。
「ありがとうございます。」
「飲み終わらなかったら持って帰って。捨てるのめんどくさいから。」
(自分の分もあるんだから、一本も二本も変わらない気がするけど…アーティストって変わってる…)
「で、なんか気になった絵とか、感想とかないの?」
蓮司が聞いた。
「……あの…」
「ん?」
「動物は描かないんですか?ネコ…」

———はぁっ

菫の発言を遮るように蓮司が大きな溜息をついた。
「やっぱこの話は無しだな。」