「どうした?」
明石の声は落ち着いていて心地よい。心配そうにされると思わずドキッとしてしまう。
「あの…えっと…」
いざとなると、どう伝えていいのかわからない。
「…あの…今から言うことを聞いても、普通の…一社員として接して欲しいんですが…」
「……うん、わかった。」
明石は察したようだった。
「社長…じゃなくて…明石さん…」
「………」
「私は…新人だった頃から、明石さんが好きです…。」
菫は明石の()を見て伝えた。
「…あ、でも!あの!さっきも言った通り普通にしてほしくて、付き合いたいとか…そういうことは…」「なくて…」「…なくて…」
菫の瞳が(うる)んで、喉が熱くなった。額の前髪を握るようにキュッと手に力を込めた。
「うん……知ってたよ。」
明石が言った。
「川井さんの気持ちには応えられないからって…知ってて、気づかないふりしてた。卑怯でごめんね。」
菫は首を横に振った。
「…この会社にも、私が入りたいって言って無理矢理入れてもらったし、そうやって近づいて困らせてたのかなって…」

———ハァ…

明石は溜息を()いた。
「…そんな風に思ってたんだ。本当は5年前…会社設立の時に連れてきたいくらいだったよ。入りたいって言ってくれて嬉しかった。」
「…本当、ですか…?」
菫は泣きたいのをグッと堪えた。
「ミモザカンパニーは俺が一緒に働きたいって思えるような、商品を大事にしてくれる社員しか雇わないよ。」
「…そうですよね。うん、明石さんてそういう人でした…。私、明石さんに“デザイナーの気持ちを伝えられる、良い営業になれる”って言ってもらえて…今もそれが目標です。」
菫は目に涙を溜めたまま微笑んだ。

「…明石さんに…お願いがあります…」