翌日 18:45
仕事帰りの菫は悩んでいた。
(昨日来たのに今日も来ちゃった…しかも業務時間外…)
蓮司のアトリエのドアの前に立った菫の手には猫グッズが入った袋が握られていた。
「何してんの?」
「きゃ!」
後ろから声をかけられて驚きの声をあげてしまった。
「一澤さん、中にいるんじゃないんですか!?」
「買い物。入れば?」
「おじゃまします…」
菫がアトリエの中に入るといつも通りの室内で、猫がいる気配が無い。
「猫は…?」
菫の表情を見て、蓮司は不安を感じ取った。
「あー…あの子猫ね。病院に行ったら迷子の貼り紙があって…」
菫の表情が曇った。
「そうですか…もとの飼い主さんのところに戻れたなら良かったですね…。」
———ふっ
菫の(しょ)げる様子を見て、蓮司は笑った。
「嘘だよ。迷子の情報にもいなかったし、病院行ったら虫だらけだったから野良だよ。いろいろ買いに外行ってたから奥でケージに入ってる。」
蓮司が奥からケージを持ってきた。
「じゃあ、飼うんですか?」
「うん。本当はもう猫…っていうか生き物は飼わないつもりだったけど。」
「良かったねー!」
菫がケージの中でタオルに(くる)まった子猫に話しかけた。
「スミレちゃんがこんなに喜んで会いに来てくれるなら飼わないわけにいかないでしょ。」
「あくまでこの子に会いに来たんです!」