「……しゃちょ…は…」
「うん?」
「やさしい…です」
「うん」
「…えがお…が、すてき、です…」
「うん」
「しゃちょぅ、は、人の…なかみだけ、見てくれてて…」
「うん」
「………」
「それから?」
「………あゆさんの、ことを、話して…る、ときが…ぃちばん…すてき…です…」
「…そっか。」
蓮司は菫の恋の不毛さに、困ったような苦笑いを浮かべた。
「明石さんと付き合いたい?」
蓮司の質問に、菫はまた首を横に振った。
「スミレちゃんはいい子だね。」
蓮司は優しく笑った。
「明石さんのことが好きだけど、アユさんのことも大好きなんだ?」
菫は(うなず)いた。
「だから誰にも言えないどころか…気づいてないふりで自分のことも誤魔化してたんだ。」
「………」
「苦しかったね。」

蓮司は菫が落ち着くまでしばらくそのまま見守っていた。