———っうっヒック…

いつかの逆で、今度は菫が長い時間子どものように泣き続けていた。
「…泣かないでよ、スミレちゃん。」
椅子に座って(うつむ)いたまま泣き続ける菫に、蓮司は下から(のぞ)き込むようにしゃがんだ姿勢で声をかける。
「そんなにマジなやつだって思わなかった。ごめん…」
蓮司の言葉に菫は何も反応しない。

蓮司が(あば)いたのは、菫の一番大きな秘密—というよりも、気づかないふりをしてフタをして胸の奥にしまっていた感情だった。

———はぁ…

なす(すべ)のなさに蓮司は溜息を()いた。
「スミレちゃん…」
「………さぃて…です…」
「ごめん」
“最低”という(ののし)りの言葉でも、菫がやっと口を開いたことに蓮司はホッとした。
「もうさ、この際全部吐き出しちゃえば?明石さんのどこが好きで、どんだけ好きか。」
「………」
「スミレちゃんはそうやって泣いてるけど、別に悪いことじゃないじゃん。」
菫は首を横に振った。
「しゃちょ…は、けっこ…してるから…」
「恋愛ってそういうもんだよ。相手に好きな人がいようが、結婚してようが、気持ちはどうしようもない。」
蓮司は(さと)すように言った。
「………」
「俺しか聞いてないよ?」
「………」
「ね?」
蓮司は菫の()を覗き込んだ。