頭上から声がして、見上げると背の高い男が立っていた。
ふんわりとパーマがかかったようなやや長めの銀髪(ぎんぱつ)に丸いサングラス、ゆるいシルエットの柄シャツという風貌で妙な迫力がある。
菫のテーブルに座っていた男はそそくさと席を立って去っていった。
「あんた川井 スミレって人でしょ?」
男は立ったまま言った。
「え?私の名前…?え?今の人は…」
「マジかよ。ナンパされそうになってたの気づいてないわけ?すっげー無防備。」
「てことは、あなたは…一澤 蓮司さん?」
男は無造作に腰を下ろした。
「つーか俺があんなダッセー男だと思われてたのショックなんだけど。」
「はぁ…」
(…質問に答えてない…)
「でもたしかに美人だよね。ナンパされるのもわかるわ。」
「あの…」
「え?」
「一澤 蓮司さんなんですよね?」
「うん。」
「座ったままで失礼しますが、株式会社ミモザカンパニーの川井 菫と申します。」
菫は名刺を蓮司に差し出した。
「知ってるよ。メールで聞いた。」
「………。」
「俺の絵で文房具つくりたいんでしょ?」
「はい…」
「ごめんね、無理。」