「“彼氏がいるか”って聞かれたら、彼氏がいるコはだいたい“いる”って答えるし、“好きな人がいるか”って聞かれたら、いないコはだいたい“いない”って答えるんだよ。スミレちゃんて本当に素直だね。」
「…そんなの嘘…」
菫はムッとした。
「相手もわかった。」
菫は無視して仕事を続けようとペンを手にした。
「スミレちゃんさ、明石さんが会社辞めた後でセクハラが“増えた”って思ってる?」
「え…現にそうでしたけど…」
「俺が思うに、それって明石さんがいた間は明石さんがセクハラから守ってたんじゃないの?」
「え…?」
菫の脳裏に明石の顔が浮かぶ。
「…やっぱり。スミレちゃんて、明石さんのことが好きなんだね。女の表情(かお)になった。」

———カタンッ

菫が持っていたペンを落とした。
「………」
蓮司の方を見て、顔面蒼白で硬直している。
「…そんなに動揺する?」
「………え?なんで…て、あ、ちがう…し…」
「この間明石さんと来たときは、明石さんがスミレちゃんのボーッとしてる部分をカバーしてるから、そんなに男に無防備でいられるんだと思ったけど…」
「………」
「スミレちゃんて、明石さん以外の男が全然眼中にないんだね。ムカつく。」
菫は首をぶんぶんと横に振った。
「全然ちがいます!だいたい社長は香魚さんと結婚してるし!」
「だから、その“アユさん”になりたいんじゃないの?」
「やめてください!ちがいます!」
菫は蓮司の口を止めようと必死になる。
「明石さんも気づいてるんじゃない?勘が良さそうなタイプだし。」
「やめてください…!」
「まあ新入社員の頃からベッタリだったなら…」
「やめてってば!」
菫の頬に光るものが伝った。