「今日はスミレちゃんの話してよ。」
何度目かの訪問で蓮司が言った。
蓮司はいつも通りキャンバスに向かい、スミレはノートパソコンで作業をしていた。
「えっ」
「俺ばっかり話しててズルいから。」
「一澤さんが言い出したことじゃないですか…」
「いいじゃん、スミレちゃんの事知りたい。スミレちゃんて何歳(いくつ)?」
キャンバスに絵の具を塗りながら蓮司が聞いた。
「…セクハラじゃないですか?」
「じゃあ契約解消する?」
蓮司が不敵な笑みを浮かべた。
「…ずるい…」
今更、年齢を聞かれたくらいで契約解消まではできない。
「……28…ですけど…」
菫はパソコン画面を見ながら渋々答えた。
「へぇ年上とは思わなかった。」
「………」
「スミレちゃんて彼氏いるの?」
「………」
「じゃあ好きな人はいる?」
「…“じゃあ”ってなんですか…これは本当にセクハラじゃないですか?」
蓮司は空笑いした。
「…なんで営業の仕事してんの?」
「え…?」
「スミレちゃんが選ばなそうな仕事って感じがするから。」
蓮司が言った。