「それにしても一澤さんすごいですよね。」
相間が言った。
「なにが?」
「相間調べですけど、絵の具で描く系のアーティストの人ってパソコンできない人が多いイメージです。でも一澤さんは撮影も補正も全部できちゃいますからね。勉強されてたんですか?」
「あー…学生の頃にちょっとね。」
蓮司は少し歯切れの悪い口振りで答えた。
「そっちの絵は新作ですか?」
相間が壁に立てかけられたキャンバスを指した。それは先日のスミレの絵だった。
「うん。これも使う?」
蓮司が言った。
「あ、その絵は…」
菫が口を開いた。
「え?」
「…この絵は今回は使わない方が良いと思います。」
「なんで?」
「…グレーの色が…少しだけ濁っているので…少し、一澤 蓮司らしくないです。」
蓮司は驚いた顔をした。
「でも素敵って言ったのは嘘じゃないです。ただ…なんとなく少し、本調子じゃない…みたいな…あ、あくまで素人の意見なので…」
菫は失礼なことを言ってしまった気がして慌ててフォローした。
「………」
蓮司は絵を見つめて黙ってしまった。
「失礼なこと言ってしまってすみません。」
「…いや、自分では全然気づかなかった。スミレちゃんすごいね。」
蓮司は絵を直すと言ってそのまま創作モードに入ってしまったので、二人は会社に戻ることにした。