翌週 火曜 午後
菫は約束通り、蓮司のアトリエを訪問した。
入口のドアは菫の強い希望で今日も開いている。
「じゃーん!」
(じゃーん…!?)
蓮司が満面の笑みでテーブルの上に出したのは、布がかけられた四角いものだった。形からするとキャンバスのようだ。
「スミレちゃんが布外して。」
菫は言われた通り—恐る恐る—布を外した。
「え、これ…スミレ…!?もしかして新作ですか…!?きれい…!」
蓮司は笑って(うなず)いた。
「スミレちゃんが最初に来た日に描き始めた。本当はこの前の明石さんと来た時にはできてたんだけど、スミレちゃんにだけ一番に見せたくて。」
「この前はスランプって…」
「うん。なんかあの日から描けるようになった。だからスミレちゃんと仕事したくなったんだ。」
「え、そうなんですか…!それは良かったですね。これすごく素敵です!」
蓮司は菫の反応に若干の歯痒(はがゆ)さを感じるような表情(かお)をした。
「…でもあの、この作品はとっても素敵なんですが…今回のうちの商品は既存の作品で作らせていただくので…」
菫が申し訳なさそうに言った。
「うん、わかってるよ。既存の作品で人気のやつはもうデータ準備してある。自分のサイトで販売してるポストカードで人気のやつ選んどいた。他の作品も欲しかったら言ってくれたらデータ準備する。」
(…この人、めちゃくちゃ仕事できるのでは…。)
菫は最初の印象を引きずっているせいで、いちいち驚いてしまう。