「犠牲?」
「契約をエサに男女の関係を迫るとか、業務に関係無い事をさせるとか…いわゆるハラスメントが無いようにしていただきたい。川井が週一こちらに伺うのは…まあ、定例のミーティングという形で時間を捻出できるように業務を調整しても良いですが…あくまでも業務の一環ですので、業務日報を提出させます。」
「………」
蓮司は黙って聞いている。
「あとは…アトリエ訪問がいつまでなのか、期限を設定させていただきます。」
「期限?」
「はい。川井にも他の業務がありますので、ひとまず“今回の商品の発売まで”“発売中止の場合はその時点でアトリエ訪問は終了”とさせてください。」
そこまで言うと、明石は先ほどとは別の契約書を取り出してテーブルに置いた。
「先日手書きで追記いただいた内容と、今私からお伝えした内容を反映した契約書です。納得いただけたら、こちらに署名捺印をお願いします。」

———ふ…ハハッ

明石が話し終わると、蓮司は笑い出した。
「スミレちゃんが無防備で素直な理由がわかった。」
蓮司の口調が敬語ではなくなった。
「え」
菫が怪訝な顔をした。明石の表情は静かなまま変わらない。
「いいよ、この契約書にサインする。印鑑とって来る。」
そう言って蓮司は奥の部屋に向かった。
「…結局社長の手を煩わせてしまってすみません…。」
菫が言った。
「いや別に、このくらいのことは当たり前。」
明石は優しく笑った。その顔に、菫は思わず顔を赤らめてしまう。