契約書をよく見ると、手書きの文章が追記されている。

“担当者は週一日以上一澤蓮司のアトリエを訪問すること。”
“担当者は川井菫。変更した場合は契約解消。”

「え!?何ですかこれ!」
「基本的に毎日いるからいつでもどうぞ。それ以外の契約書にはもうサインしないから。」


午後 ミモザカンパニー
「こんな内容だったら別に無理して契約しなくても良いけど。」
明石が言った。
「え、でも…」
人気上昇中の一澤 蓮司の商品を発売できれば売り上げは確実に上がるし、会社の知名度も高まると予想できる。まだまだ新参のメーカーであるミモザカンパニーとしては願ってもない好機だ。
追記事項以外は全てミモザカンパニーの希望通りの契約内容で、作品データの準備などもすべて蓮司本人が行うというのも本来はあり得ないくらい良い条件だ。
「私は大丈夫です。週一、平日は厳しいので土日に行きます。」
「いや、土日は使わせられないから、そこは柏木と俺で川井さんの担当営業先のフォローするようにするけど…そういう話じゃなくて、男がこういう条件出して来てるのが心配。」
この手の話に呑気な菫の様子を見て、明石は溜息を()くと何かを考えるように無言になった。

翌週 月曜日
「ミモザカンパニーの明石(あかし) (あまね)です。よろしくお願いします。」
明石が名刺を差し出した。
「…一澤 蓮司、です。」
明石は菫と一緒に蓮司のアトリエを訪れていた。菫は明石に持たされた手土産を蓮司に渡した。