「スミレちゃん、ヘタだね…」
「蓮司が器用すぎるんだよ…」

蓮司のニューヨーク行きが決まり入籍を済ませた二人は、新婚旅行として約束していた京都旅行に来ている。
以前に蓮司がお世話になった染色工房にお礼も兼ねて訪れていた。
染めの体験をしている二人の会話に、染色職人は思わず笑ってしまう。
「あの時の商品、すぐに完売したみたいです。面倒くさい注文に付き合ってくれてありがとうございました。」
「いやいや、一澤くんの絵は染めるのがおもしろかったよ。ニューヨークでも活躍して、またなんか一緒に作らせてよ。」

染色工房を後にすると、二人は寺社めぐりや食事を楽しんで過ごした。

今回の旅行は菫の連休を利用して、2泊3日、露天風呂付きの客室に宿泊することにした。

「なんでそんなすみっこにいんの?」
蓮司が言った。
「だって…恥ずかしい……」
菫が露天風呂の隅で頬を赤くしてして言う。
「一緒に入る意味ないじゃん。」
蓮司は不機嫌そうに口を尖らせた。
(お風呂ってなんか妙に恥ずかしい…)

「ス、スマイリー…元気かな!?」
菫は恥ずかしがって必死に話題を探した。
「あースミレちゃん()の猫との相性次第なとこあるからね。」
スマイリーは菫の実家で預かって貰っている。
「前に一度会わせたときは大丈夫そうだったし、“スミレさん”は大人だからスマイリーがちょっとくらいヤンチャでも大丈夫だとは思うんだけど…」
「まさかスミレちゃん家の猫の名前が“スミレ”とはね。」
蓮司は笑った。
「スミレ“さん”まで名前だから。両親が“うちにピッタリのコがいた!”って、引き取ってきたと思ったら、名前がスミレさんだったの…。」
「愛されてるね。」
蓮司はまた笑った。