薔薇公爵の呪いを解くための代償 ~ハッピーエンド後のヒロインと攻略キャラの後日談~


 世の中の物語というものはハッピーエンドで幕を閉じる。
 けれどここは現実で、登場人物たちの人生は続いていく。
 マリアとの思い出を抱いたまま、薔薇公爵としてその責務を果たそう。
 手紙は汚さないように丁寧に折りたたんで木箱に戻し、また穴を掘って埋めた。

 それから屋敷の裏山へ向かい、彼女の墓の前に座り込んだ。
 真っ白な墓石で、彼女の名前が書かれている。マリア・ローズ・ナイトメア、私の最愛の妻がここで眠っていた。その事実に、現実に、私はようやく目を背けずに彼女の死を受け入れた。
 墓石は数年前とは思えない程、年季が入っているように見える。

(ああ、君のために花を持ってくるのを忘れてしまったな……)

 どれだけの時間が経ったのだろう。
 すでに体の感覚は無い。
 降り注ぐ雪は私の体に積み上がり、いつの間にか視界がブラックアウトした。
 意識が遠のき、一時な夢が浮かび上がる。

 彼女と過ごした日々が蘇っては消えていく甘美な夢。
 泡沫のように甘く、淡く儚い。
 出会って、恋において、結婚して、長い時間を過ごす。
 同じ舞台を見続けるとしても、色あせない輝き。
 胸を焦がす思いが溢れてとまらない。

『ヴェルハイム様、愛しております』
「マリア。ああ……私も……君を愛している」

 私が命潰えたとき、たぶん彼女は困った顔をしながら待っていてくれるだろうか。
 それとも落胆させてしまうだろうか。
 必ずそっちに逝くから――もし叶うのなら待っていてほしい。

 ***

「本当に人間は愚かだ。記憶なんて曖昧なものに(すが)って、愛だとか思いだとか」

 半分精霊の魔道士マーリンは人間の心が分からない。
 だから時折、悪戯をして人の機微を知ろうとする。

「薔薇公爵の呪いなんて僕が軽くいじっただけなのにね」

 それでも記憶を手放さなかった一族。
 愚かにも愛を貫いた夫婦。
 それは咲き誇る花のように短い一生で、線香花火のように煌めきあっという間に消える。
 マーリンにとっては瞬きと同じ僅かな時間。
 けれど――。

「マリア、ヴェルハイム。君たちの関係が――ほんの少しだけ羨ましいよ。ほんの少しだけれど」