「……そうかもしれない。でも、お話とかでよくあるみたいに、時間の経ち方が違うことだってあるかもよ。こっちの三日間の時間が、あっちは三時間しか経っていないとか」
「……マジで?」
「私には、何にもわからない。ごめんね」
「ううん、ごめん。お姉さん、あたしが八つ当たりしてた」
あたしはお姉さんに、
「覚えていることが何か、考えてみるね」
と、無理矢理笑顔を作った。
覚えていること。
例えば、自分のこと。
家族のこと。
好きになった小説のこと。
図書委員の、三つ編みの女子。
クラスメートで名前を知っている数人。
担任の先生。
「……うーん、やっぱり基本的なことは覚えてるんだね?」
お姉さんが言う。
「市原さんのことは、やっぱり覚えていないけど」
と、あたしはお姉さんを見た。
「本当にあたし、知ってる?」
「えー……、うん。そうだと思うんだけどなぁ。事故に遭って目覚めたら、もう市原くんと話していた記憶があるからさぁ」



