ひとりぼっちのさくらんぼ


木々の間。

高田くんが立ち止まった。



慌ててあたしもそばの木の陰に隠れる。



高田くんは携帯電話を取り出して、
「もしもし?今、着いたよ」
と、話し始めた。



(誰と話してるんだろう?)



あたしもそわそわしてくる。



まさか高田くんが隠れヤンキーなんて思っていないけれど。

いつもと違う様子の高田くんに、なぜか緊張と不安を感じる。



「高田くん」



声がした。

高い声。



高田くんは携帯電話をしまった。



「誰かに見られた?」
と、尋ねながら。



高い声の主は、木々のさらに奥にいるらしい。

あたしが隠れている所からじゃ、誰なのか、顔を見ることはできない。



「見られていないと思うよ、大丈夫。でも、私は見られても平気だよ」



……この声。

聞き覚えがある。


「良かった」
と、高田くんは一、二歩ほど足を進めた。



声の主も高田くんに近寄ったことが足音でわかる。