イヤホンを外す。
Tくんはニコニコと白い歯を見せて笑って、
「何の曲聴いてンの?』
と、あたしが外したイヤホンを手に取った。
同じ音楽が、あたしとTくんの耳に流れていく。
この状況に、至近距離に、心臓がドキドキして、あたしは音楽どころじゃない》
一気に書いた。
よくある、少女漫画のワンシーンみたいなやつ。
「高田くん」とは書けなかった。
だから「Tくん」にした。
恥ずかしかったから。
「楽しいじゃん……」
図書室で会った、あの女子には感謝しかない。
名前、聞いておけば良かったな。
もっと話したかったな。
それから。
あたしは、ノートにありもしない妄想を書く日々を過ごしている。
やっぱり楽しい。
だってノートの中では、あたしは主人公。
友達だっている。
図書カウンターにいたあの女子の名前は知らないけれど、勝手に『杏奈ちゃん』という名前を付けて、ノートの中で勝手に、あたしの親友になってもらっている。



