頭を上げると、
「それじゃあ、あたしは帰ります」
と、図書カウンターから出た。
「あのっ」
背中から女子の呼ぶ声。
「頑張ってください」
振り向くと女子は、両手の拳を握り、ガッツポーズをしていた。
その姿が可愛らしかった。
それからあたしは。
本屋さんに行って。
『孤独な月をあなたにあげる』を、購入した。
あたしにとって。
この本は、これから先。
宝物であり、お守りのような存在になると思ったから。
どうしても自分の手元に置いておきたかったんだ。
家に帰って。
あたしは机に向かい、ノートを開いた。
なんでもいい。
文章を書くなら、日記だって、妄想だって。
《Tくんと話す内容は、だいたい趣味の話で、中でも音楽の話が多い。
Tくんは今日の放課後、あたしの席の前に座り、何かを話しかけてきた。
あたしはイヤホンから流れる音楽に邪魔されて、Tくんが何を話しているのか、聞き取れずにいた。



