高田くんが帰って。

五分も経っていないと思う。



病室の扉がノックされた。



「はい?」



誰だろう?

時計を見てみる。

夕方四時半を過ぎている。



(こんな時間にお母さんは来ないと思うし……)



廊下で、看護師さんの声。



「あら、また来てくれたの?彼女、目が覚めたのよ。良かったわね」



「そうなんですか、良かったです」
と、誰かが返事をした。



静かに扉が開いて、
「失礼します」
と、男子の声がした。



看護師さんと話していた声と同じ。



柔らかくて。

少し低くて。

聴き心地の良い声。



一歩。

声の主が、病室に入って来た。



顔が見える。



あたしと同じくらいの年の男子。

他校の制服を着ている。



眼鏡をかけていて。

優しそうな顔立ち。

うっとりしそうなくらいに、イケメン。



(あれ?)



何か、あたし。

この人のことを知っている気がする……?



(でも、誰かはわからない)



「目が覚めたって聞いて……」
と、男子は言った。



微笑みかけられて、心臓がとび跳ねた。



「あの!」



あたしは思わず、声をかけてしまった。