周りからの注目を浴びていても、彼女には気にする様子もない。
「何あれ、痴話喧嘩?」
「修羅場ってやつ?」
周りの人達はあたし達から距離を取る。
この異様な空気に巻き込まれないように。
女性店員は市原さんの背中にいる、お姉さんのほうへ手を伸ばした。
お姉さんの洋服を掴んで、
「あなたがっ、あなたが全てを台無しにしたのっ!」
と、にらんでいる。
市原さんは女性店員の腕を掴んで、
「離してくださいっ」
と、お姉さんを守る。
「なんで?」
女性店員は、市原さんに視線を移す。
「なんで、この人のことを守るの?」
信じられないと言わんばかりの表情。
「この人は、私と朝日くんにとって、邪魔者なのに?」
そう言うと市原さんの腕を振り払って、お姉さんの肩を押し始めた。
「お姉さんっ!」
あたしはお姉さんの背中に片手を置いて、女性店員の手を払いのけた。
咄嗟の行動だったけれど。
やっぱり、いつか考えた通りだった。
あたしは、お姉さんに触れることでも、実体が持てる。
お姉さんは突き飛ばされることは無かった。
「!?何、今のっ!?」
女性店員が自分の手を不思議そうに見ている。