ひとりぼっちのさくらんぼ


(……えっ?)



思わずお姉さんと目が合う。

なんとなくにらまれている。



あたしは慌てて、
「だから、あたしは知らないって!」
と、首を振る。



お姉さんは市原さんに視線を戻して、
「……そんな失礼なこと言って、ごめんなさい」
と、謝っていた。



市原さんは、
「大丈夫だよ、オレもごめん。……忘れてね」
と、さわやかに笑った。



ふたりはにこやかにしているけれど、あたしだけは焦っていた。



(そんなこと、あたし、言わないと思うけどなぁ。ってか、そもそも市原さんのこと、全く覚えてないのに、にらまれても……)



息苦しさを感じて、あたしは制服のリボンを取ってテーブルに置いた。



(なんか、水を飲みたい気がする)



焦ったり、慌てたりしたから。

のどが渇いたのかな?



ふいに水の入っている、お姉さんのそばにあるコップに手を伸ばす。



(どうせ持てないけどさ)



今、あの時みたいに何かに触れられるようになったらなぁ。

実体を持てたなら。

水だって飲めるのかも。

でも市原さんの前でそれはリスキーかも。

あたしが実体を持つようになれば、お姉さん以外の人にも、あたしの姿が見える可能性だってあるんだから。