それから、しばらくして。
運ばれてきたパスタは良い匂い。
クリームパスタはチーズがとろっとしていて、その濃厚な味を想像するだけで口の中が幸せになる。
トマトとバジルとベーコンのパスタも、オシャレな見た目で見るからに女子が好きそう。
バジルの香りが食欲をそそる感じ。
食べているお姉さんが、「美味しい」を連発している。
お姉さんと市原さんは、市原さんの趣味である野鳥観察の話をしたりして、そこそこ盛り上がっている。
あたしは黙ってふたりを見守る。
市原さんはニコニコして、
「本当は今日、来てくれないかと思ってたから、来てくれて嬉しい」
と、穏やかな声で言った。
「え?なんで?」
と、お姉さん。
「今日、誘ってもらえて嬉しかったよ?」
市原さんは「良かった」と言ってから、
「初めてちゃんと話した時のこと、覚えてる?上条さん、オレに言ったんだよ」
と、言葉を切った。
それから、こう続けた。
「上条さん、言ったんだ。『あなたと知り合うの、なんだか怖い。悪いことが起こりそうで』って」



